高齢者の視力と運転免許

運転免許の取得や更新時に皆さんも視力検査を受けます。このとき視力が両眼で0.7以上、かつ一眼でそれぞれ0.3以上 であること 又は 一眼の視力が0.3に満たない者もしくは一眼が見えない ものについては他眼の視野が左右150度以上で視力が 0.7以上であることで、免許書の交付や更新が許されます。

視力の値は視野中心部の視機能をあらわす指標の一つにすぎず,交差点で必要とされる周辺視力を反映するものではないからです。また視力の値は,突然視界に飛び込む指標を識別する機能と相関しない点が大きな問題と思われます。運転する技能のなかでも,視覚の評価を視力検査だけに頼ることは,危険だとずる意見もあります。

近年高齢者の事故率が問題視されています。その運転能力のひとつに評価法として、Useful Field of View Test(有効視界テスト)が注目されてきました。この検査は、短時間に有効視野を評価するもので、視覚感度の分布を測定する従来の視野検査と異なり、注意力や視覚における処理能力も評価されます。調査の結果、この有効視界を40%以上失うと、事故の発生率が2.2倍高くなることが判明しています。

ところで、高齢者にみられる加齢白内障の場合、眼疾患のなかでは視力障害の原因として頻度の高い疾患です。また高齢に有病率の高い緑内障による視野異常も伴いやすいことも重要です。

両眼の白内障の場合だけをみても、事故の危険度が片眼性に較べて,さらに2.5倍増加します。これに前述の緑内障や他の眼疾患が合併すると、中心視力が良くても視機能全体でみて危険率が高まることは容易に想像できることです。

高齢者の運転能力を評価するシステムは,本邦で検討されているものの、正式に導入されていません.私が車の運転を希望する患者さんと手術時期を決める場合,視野検査やコントラスト感度の測定等,いくつかの視機能を評価し(主に霧視や光のギラツキ感を測定する検査です)、手術をうける時期を相談しています.

米国では,各地にDriving Assessment Clinic(自動車運転評価クリニック)が設置され、詳細な運転技術評価や運転能力が評価されています.本邦は長寿国となりました.車の運転も含めて,高齢者であっても,生活を楽しむために必要な機能を確保することが要求されます.単に高齢だからと、理由もなく運転を諦めさせることは、慎んみプライバシーやプライドに配慮すべきですが、事故率の高いことを考えるとよ良い方策がのぞまれます。

社会的にみると、高齢者の運転にリスクが常に伴っていることを、皆が認識すべき時代を迎えており、ある一定の年齢を超えた方が免許を更新する際に,公の機関で講習や認知障害の有無を検査する以外に、視覚有効テストのような視覚に関連する評価を行うことは,安全性と事故の減少にとって重要ではないかと思われます.