目の症状でどんな病気を考えるか

目に病気がおこると,特徴的な症状が現れます。患者様の訴えとして、われわれ眼科医の出会う頻度の高い「自覚症状」からどのような病気の可能性があるかあげてみたいと思います。

(注意、症状をご参考にしていただくことは大切なことだと思います。が、それで決め付けて自己診断を下すことを避けましょう。思い当たるところがあれば、眼科医に相談してください。勝手に決めつけてしまうことで、重大な取りこし苦労につながることが多いからです。)

診断前やその後に、気になった症状について医師に説明を求められた際に役立でば幸いです。

  • 目の疲れ

焦点をあわせにくい

おもに遠視(遠視性乱視は、ご自分の調節力によって,物を見るときのピント合わせがカバーされるので、自分が屈折異常であることに気づかないまま過ごされている事が少なくありません。疲れやすいとか、頭痛にもちだなどということがあります。ピント合わせの主役である調節力が弱くなってきても疲れが生じます。老眼のはじまりなどにおこってきます。また、ご年齢の割りに近くの文字が見えにくくなったときに注意が必要なのは、しばしば糖尿病の始まりであることも日常の臨床で経験することです。のどが渇き水を多くとるようになってきた、小用の頻度が著しいなどの初期糖尿病を疑う全身症状にも注意を払う必要があります。

 

両目でみると二つみえ

私たちの目には,片眼に6つの眼球を動かす外眼筋と呼ばれる筋肉があります。その外眼筋は、3種類の脳神経が互いに作用しあって,バランスよく動きます。この働きに故障が生じるとバランスがくずれ、物がふたつに見えることになるのです。そのような外眼筋麻痺の原因は、末梢性と中枢性に分かれます。両目でみて、ぐらぐらする,気持ちが悪い,両目でじっとものをみつめていられないなどの、強い症状が出てきますのでCTやMRI検査が診断や鑑別に有用となります、

疲れ目と眼表面疾患

結膜炎は,原因によっては,急性の強い炎症が生じる場合、比較的軽症で慢性になるものがあります。後者の場合,症状のひとつとして目の疲れが生じます。

最近はアレルギーによるものやドライアイに伴う慢性結膜障害が多く見られます。ときに悪くなり,症状の波が見られる特徴もあります。

近ごろ問題となるPM2.5やデイーゼル車の排ガスの粒子のような大気汚染(おせん),化学的物質や空気のよごれによる物理的な物質(焼却炉の煙,紫外線など)が,たえずこの外部に露出している目を刺激して結膜炎が生じ,ときには刺激が角膜におよび表層性角膜炎をおこします。

目の表面の軽度の炎症では,目やにはあまり出ないし,赤みも大したことはないのに,なんとなく目が「シバシバする」という訴えが多く見られ,同時に目が疲れるという訴えもみられます。目を使えば,充血やうっ血が重なり、いわゆる目が赤くなる,外からみれば白目が赤くなる充血が生じます。このとき「うっとうしさ」や「疲れ易い」という感覚も生じることがあります。

アレルギー結膜炎の所見

アレルギー結膜炎の所見

  • 目が痛い

一般に痛みというのは,いろいろな種類があり,どんな痛みかという問いに対する答は,たくさんあってしかもそれぞれ特徴があります。

身体の異常のシグナル

目の知覚は三叉(さんさ)神経という知覚神経が分布してつかさどっています。黒目、角膜の表層にはその神経の末端が密に分布しています。したがって,角膜に少しでも傷がついたりすると,強い刺激を感じ,痛みが生じます。角膜は身体のなかでもっとも鋭敏であるとされているくらいです。目にごみが入ってだけで、耐えられない痛みを感じ、そうしたご経験のあるかたはいかに苦痛かご理解いただけると思います。

目にごみがはいったら

目にごみが入ったとき,まずすべきことは,慌てずに目をつぶってしばらくじっとしていることも有用です。組織にささっていなければ,異物感であふれる涙で流される可能性が高いからです。その後少しまばたきをし、これをくり返してゆくと,異物は涙とともに目がしらのほうに移動し,うまくゆくと外へ出てきます。いきなり目をこすると、かえって,異物で目に傷をつけてしまうことになります。

この時点で痛みがとれなければ,お近くの眼科医に異物を診てもらうことが賢明です。その時異物が残存しているのであればそれを除去してもらわなくてはなりません。しかし、異物がすでに流されているにもかかわらず、異物で生じた小さな角膜の傷は,それ自体で刺激の強いものであり。その後の角膜感染対策という意味でも診察を受けていただく必要もあります。

角膜異物

角膜異物(鉄さび)

コンタクトレンズによる痛み

コンタクトレンズは硬いハードレンズとやわらかいソフトレンズに分類されます。角膜はまばたきで涙が表面を濡らされ、その涙液層を介して空気中の酸素を取り入れ透明性を保っています。コンタクトレンズのメーカーは酸素の透過率の高さを歌いますが、理論上100パーセントに近くても、ドライアイや通年性アレルギーなど患者さんの様々なコンデイションを考慮すると100%はあり得ないのではないかと考えるのが妥当ではないでしょうか。

コンタクトレンズを使う,あるいは使いたい人にいつもいうことは,コンタクトレンズを角膜につけているということは,角膜を傷つけながら装用しているという事。私たちがコンタクトレンズを使っている人の角膜を顕微鏡で観察すると微細な角膜上皮のはがれを見つけることが極めて多いからです。

角膜のきず

汚れたハードコンタクトで生じた角膜下方の縦傷

角膜とコンタクトレンズのあいだに涙の層があるわけですが,どうしても物理的にここに微細な傷はできがちです。

それが広くなったり,深くなったりすれば,目がごろごろして強い痛みが感じられるようになり,充血したり,まぶたが益々はれてきます。加えて細菌感染,特に緑膿菌感染をおこすと重篤な障害を招きます、

目の痛みの原因となる病気 強膜,眼筋筋膜,虹彩,涙腺あるいは眼球後方の組織などの炎症,急性緑内障,眼球後方の視神経炎,帯状疱疹などのなかには,鈍い痛み,押す痛み,さすような痛み,ぐりぐりするような様々な痛みが生じます。

 

  • 目が赤くなる

結膜,角膜,虹彩,毛様体の炎症がおこると目が充血してきます。そのほか急性緑内障発作でも同様です。虹彩毛様体炎や緑内障発作の場合には,黒目のまわりが赤く,刷毛でぬったようになります(毛様充血)が,強膜炎は赤紫色に,結膜炎は球結膜が橙赤色に充血します。

 

球結膜の血管が破れて出血する

もうひとつ赤くなるものがあります。それは血がそのまま見えて赤くなるものです。球結膜は本来透明ですが,その下の上強膜は白い不透明な膜ですので,いわゆる白目といわれます。球結膜に分布している血管が破れるとそこに出血がおこります。透明な所に血が出るのでまっ赤になるのです。

多くは自分では気がつかずにほかの人が見て,びっくりして,目が赤いと指摘します。冬,寒いときとか,天気が急に変わったとき,ときにせきやくしゃみの後とかに生じます。この出血をくり返すようでしたら,これはなにか全身的な血管が弱くなる病気や,血液の病気ではないかと疑って,そちらのほうの検査をする必要があります。

結膜下出血

 

片目が突然見えなくなるのは

片方の目が突然異常をおこしたときは,すぐにわかります。この代表的なものは,眼底の網膜に分布している動脈がつまる疾患です。網膜中心動脈は,脳へ向かってゆく内頸動脈から分かれた眼動脈の枝で,視神経の中心の所で網膜に入ってきて,四方向に枝分かれします。この中心の所で血管がつまると,網膜全部への血液供給がストップし、この場合は突然,その目の視野はまっ暗になります。

動脈がつまる原因は動脈硬化が多い

動脈の閉塞は動脈硬化によるものが占めます。動脈の壁が厚くなり,血管の内径が不規則にせまくなってくると,血液の流れにうずまきができて,そこにやがて血液のかたまりが形成されて血液を通さなくなります。

また動脈の壁そのものが収縮して閉塞してしまうものもあります。成人や高年者では動脈硬化にともなうものがあり,若い女性には高血圧をともなうものがあります。そうでない場合は血管を太くしたり細くしたりする神経が不安定な場合で、瞬間的に網膜のある部分で血液の流れが異常をおこしていることが疑われます。このような場合、至急眼科医に診てもらうい,そして大事に至らないように,血管収縮のおこらないような手当てを受けることがたいせつです。網膜中心動脈閉塞症網膜中心動脈閉塞症

 

  • 物がゆがんで見える

 「曲がって見える」ということを検査するアムスラー検査表のひとつを下に示します。これは升目で、この中心にある点を片方の目で見ます。実物で見る場合の距離は約30センチ。老眼鏡のいる人は,もちろんそのめがねをかけて見ます

もし物がゆがんで見える人がこれを見れば,ゆがんで見えます。そのゆがみ方―そのゆがみが小さいます目のどこに,どの範囲にあたるか,どのようにゆがんでいるかということで医師には判断できます。

一片が10センチの正方形で,私たちが物を見る網膜の中心部まわりの黄斑部をカバーしています。この範囲はいうまでもなく,視覚のもっとも重要なところで,感覚がもっとも鋭敏です。

アムスラー検査表

変視の検出に役立つアムスラーチャート

物がゆがんで見えると,字などが読みにくくなります。中心視力が悪くなる場合もあります。また,ゆがみが生ずることは,網膜にもなんらかの病変がおこっているわけで,その部分に応じて線が暗く,灰色に見えたりします。これを暗点といい,格子が部分的に消失してしまう場合もあります。視神経が障害されると,直角に交わっている格子があちこち切れていて,網目に穴があいているようになり「破線現象」と呼びます。

中心性網膜症

変視の著しい中心性網膜症

黒いすすが飛ぶ

光は瞳孔を通って眼底の網膜に達して,外の物体の像をつくります。もし,その途中に光線をさえぎるものがあると,それは影となって網膜にうつることになります。影はいろいろな形をしていますが,一般に多くはは蚊が飛んでいるように感じることから,飛蚊症とよばれます。飛蚊症をおこす場所は,硝子体です。生理的飛蚊症というのは,ふだんは気づかないものなのですが,青空を見たときや白い紙を見たときなどに,多くは半透明な,よじれた線維状や小さい水玉がつらなったようなものとして見られます。また,午前中はあまり気づかないけれど,夕方になるとどうも目につくということもありますし,長いあいだ病床についていて,体力が衰えたときなどにもよく自覚します。

硝子体混濁

硝子体のにごりがおこるのは

硝子体のにごりは,歳をとるとともに硝子体が網膜に接している部分がはがれ、網膜の周辺で硝子体と網膜が癒着しているようなときには,硝子体剥離がこの癒着した場所をひっぱるように働き,網膜に穴があいたり,さけたりします。そのさけめを放置してしまうと網膜剥離という重大な状態になります。

黒いすすが流れるように見えたら気をつけましょう

多くの人は,生理的硝子体混濁を飛蚊症状自覚していますし,ぼんやり遠くの空をみつめたり、白い壁をぼんやり見たりするときに自分で見ることができます。しかし,ある日突然に,ようすが変わって,蚊の群が現れたようにたくさんのかたまりが現れたり,黒いすすや墨汁が流れるように見えたりした場合は,目の中になんらかの病変が生じたことを示しているのです。このような場合には,急いで眼科医を受診して,原因を明らかにして対処しなくてはいけません。

周辺部に生じた列孔

網膜周辺部に生じた網膜裂孔